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岡山地方裁判所 昭和44年(行ウ)47号 判決

岡山市平野三六〇番地

原告

株式会社敷物新聞社

右代表者代表取締役

脇本猪三男

右訴訟代理人弁護士

板野尚志

岡山県倉敷市幸町一番三七号

被告

倉敷税務署長

多田慶二

右指定代理人岡山地方法務局訟務課長

門阪宗遠

大蔵事務官 島津巌

大蔵事務官 三坂節男

検事 大道友彦

法務事務官 田野昭二

大蔵事務官 永谷外史郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和四三年六月二七日付でした原告の昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における法人税額を五一万四四〇〇円とする更正処分を取消す。

2  被告が原告に対し昭和四三年六月二八日付でした源泉所得税二四万七、七〇九円の納税告知処分のうち裁決で取消された額万四、〇〇〇円を除いた部分および不納付加算税二万四、七〇〇円の賦課決定処分のうち裁決で取消された額五、四〇〇円を除いた部分をいずれも取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は敷物、織物等に関する記事を掲載する新聞を発行することを目的とする新聞社であるが、原告会社の昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和四〇事業年度という)にいて法人税額を四一万九、九七三円として確定申告したところ、被告は原告に対し昭和四三年六月二七日付で法人税額を五一万四、四〇〇円とする更正処分をし、その旨原告に通知した。

2  さらに被告は原告に対し同月二八日付で、源泉所得税二四万七、七〇九円の納税告知処分および不納付加算税二万四、七〇〇円の賦課決定処分をなし、その旨原告に通知した。

3  そこで、原告は右処分につき被告に対し昭和四三年七月一五日異議の申立をなしたところ、右申立は同年一〇月一六日広島国税局長に対する審査請求とみなされ、同局長は昭和四四年三月一三日付で法人税更正処分に対する審査請求についてはこれを棄却し、源泉所得税納税告知処分および不納付加算税の賦課決定処分についてはその一部(前者については五万四、〇〇〇円、後者については五、四〇〇円)を取消し、その余を棄却し、同月一八日原告に通知した。

4  しかし、被告のなした前記法人税更正処分ならびに源泉所得税納税告知処分(裁決により取消された部分を除く)および不納付加算税賦課決定処分(裁決により取消された部分を除く)はいずれも事実を誤認してなされた違法があるから請求の趣旨記載のとおりその取消を求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因1ないし3はいずれも認め、同4は争う。

三  抗弁

1  原告は、その代表取締役である脇本猪三男がした昭和三九年二月のハワイ旅行に要した費用のうち五〇万円を調査費として同年七月三一月同人に支払い、また昭和四〇年五月の中南米およびカナダ旅行に要した費用のうち三〇万五、三四二円を旅費として同年一二月二一日同人に支払い、前者を昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下昭和三九事業年度という)の損金に、後者を昭和四〇事業年度の損金にそれぞれ計上したうえ右両年度分の法人税について確定申告をした。

2  しかしながら、脇本がした前記各旅行はいずれも日本交通公社海外旅行関西営業所の募集した、ハワイ旅行の場合ハワイ観光団に、中南米カナダ旅行の場合ニユーヨーク世界博覧会の見学を兼ねた中南米カナダ視察団にそれぞれ参加したものであり、その旅行日程は主催者である日本交通公社関西営業所の組んだスケジユールに従い、ハワイ旅行のそれは昭和三九年二月一五日大阪空港を出発し、同月二一日大阪に帰着したもので、その間一五日はホノルルにて市内観光、一六日はオアフ島一周観光、一七日はカウアイ島内の観光、一八日はハワイ島ヒロ市内およびレインボウ滝観光、一九日はハワイ国立公園、キラウエア火山黒砂海岸およびコナ地区観光、二〇日はワイキキ海岸にてコダツクフラシヨウを見学するなどその全行程がことごとく観光に終始しており、また中南米カナダ旅行は昭和四〇年五月一日出発し、同月二九日帰着したもので、その間米国など六か国を巡り、各国の首都および著名都市一七都市を訪れ、各都市に一日ないし二日の滞在でバス等により市内および近郊の観光をしたものである。

しかも、原告は予め右各旅行について脇本に対し業務命令、出張命令を与えておらず、その費用も出発前に支給することなく、右各旅行が終つて相当の日時を経た後に支給しているし、用務を終えて帰社したときは復命書ないし報告書を提出させるのが原告会社の通例の扱いであるのに、前記旅行にあつてはこれらの手続が全くなされていない。

ところで、脇本は前記旅行を含め前後八回にわたり海外旅行をしているが、その旅費総計六〇〇万円ないし六五〇万円は、同人が代表者をしているこだま株式会社、岡山県不変色畳表協同組合など原告と業種のちがう会社や協同組合の売上脱漏の一部を流用して分担せしめていた。

以上のような旅行目的、旅行先、旅行経路、旅行期間、旅行中の脇本の行動、旅費支出の経緯等からして、前記各旅行がいずれも脇本個人の観光旅行であつたことは明らかであるから、ハワイ旅行についてはその費用五〇万円のうち裁決で取消された部分を除くその余の三二万円、中南米、カナダ旅行についてはその費用三〇万五、三四二円はいずれも原告会社の業務上必要な費用とは到底認められず、損金に計上しえないものであり、これらは原告会社が代表取締役脇本に対し賞与として支出したものに他ならない。

3  そこで、被告は昭和四〇事業年度の法人税につき右中南米、カナダ旅行支出費相当額三〇万五、三四二円を原告申告所得額に加算して別表一、二のとおり法人税額五一万四、四〇〇円を算出したうえ本件更正処分を行なつた(なお、昭和三九事業年度のハワイ旅行分については更正の除斥期間を経過していたので、更正しなかつた)ものであつて、右更正処分は適法である。

4  また、被告は原告に対し別表のとおり昭和三九年七月三一日および昭和四〇年一月二一日確定の源泉所得税二四万七、七〇九円(但し裁決により取消された部分を除く)の納税告知処分および不納付加算税二万四、七〇〇円(但し裁決により取消された部分を除く)の賦課決定処分をしたのであつて、右各処分はいずれも適法である。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁のうち1の事実は認める。

2  同2のうち脇本が昭和三九年二月一五日から同月二一日までハワイ旅行したこと、昭和四〇年五月一日から同月二九日まで中南米、カナダ旅行をしたこと、右各旅行はいずれも日本交通公社海外旅行関西営業所の募集した、ハワイ旅行の場合ハワイ観光団に、中南米カナダ旅行の場合ニユーヨーク世界博覧会の見学を兼ねた中南米カナダ観察団に各参加したものであること右各旅行には原告会社の業務命令、出張命令は出されておらず、取材計画、用務終了後の報告書ないし復命書の提出もなく、旅費は出発前に支給されず、旅行が終つて相当の日時を経た後に支出され、その算定の根拠も不明であること、脇本は前後八回海外旅行をしたが、右旅行に際し被告主張の会社等にその費用を分担支出させたことは認め、その余は否認する。

原告会社発行の敷物新聞には、主として敷物に関連した記事を掲載しているが、それ以外の記事も必要に応じ掲載しているのであつて、本件旅行は、新聞記事および旅行記の取材という業務遂行目的を主とし、観光目的がこれと併存していたにすぎない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし三二号証

2  証人光岡克己、同蓬郷三郎、原告代表者

3  乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし八号証、第九号証の一、ないし五、第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一、二

2  証人蓬郷三郎

3  甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし二九号証の成立ならびに第三二号証の原本の存在および成立を認め、甲第三〇、三一号証の成立は不知。

理由

一  請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁について判断する。

1  次の事実は当事者間に争いがない。

原告会社の代表取締役脇本猪三男は、昭和三九年二月一五日から同月二一日までの間ハワイ旅行を、昭和四〇年五月一日から同月二九日までの間中南米カナダ旅行をしたが、右旅行はいずれも日本交通公社海外旅行関西営業所の募集した、ハワイ旅行の場合ハワイ観光団に、中南米カナダ旅行の場合ニユーヨーク世界博覧会の見学を兼ねた中南米カナダ視察団に各参加したものであり、また右各旅行については、いずれも原告会社の業務命令、出張命令などは出されておらず、取材計画、用務終了の報告書ないし復命書の提出も全くなかつた。

しかも、それに要した旅費は原告会社から出発前には支給されず、旅行終了後相当の日時を経てから脇本に支払われたがその算出の根拠は必ずしも明らかでない。

そして、ハワイ旅行の費用は原告会社の昭和三九事業年度の中南米カナダ旅行の旅費は昭和四〇事業年度の各損金として計上された。脇本は本件旅行を含め前後八回海外旅行をしたがその旅行に際し、被告主張の会社等に費用を分担支出させていた。

2  成立に争いのない甲第四ないし二八号証、乙第一号証、第二号証の一、第九号証の一、ないし五、第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし四、証人蓬郷三郎の証言、原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると次の事実が認められる。

脇本は主催者である日本交通公社海外旅行関西営業所の組んだ後記(一)、(二)のスケジユール通り、参加団体と行動を共にし、スケジユールをはずれて行動したことはなかつた。

(一)  ハワイ旅行(昭和三九年二月一五日から同月二一まで)

一五日 東京国際空港発、ホノルル着、午後市内観光

一六日 観光バスでオアフ島一周

一七日 ホノルル発、カウアイ島着、ホテルにて休養後島内観光

一八日 カウアイ島リフエ空港発、ハワイ島ヒロ空港着、ヒロ市内、名花庭園、レインボウ滝観光

一九日 ヒロ特別バスにてハワイ国立公園、キラウエア火山、黒砂海岸、コナ地区観光、空路ホノルルへ

二〇日 ワイキキ海岸にてコダツクフラシヨウ見学、午後会食

二一日 午前中自由行動、ホノルルから東京へ、東京から大阪帰着解散

(二)  中南米カナダ旅行(昭和四〇年五月一日から同日二九日まで)

一日 東京国際空港発、ホノルル空港着

二日 ホノルル空港発、サンフランシスコ空港着

三日 サンフランシスコ市内および郊外見物、サンフランシスコ空港発ロスアンゼルス空港へ

四日 ロスアンゼルス市内およびハリウツド見学

五日 午前中休養、ロスアンゼルス空港発メキシコシテイ空港着

六日 メキシコシテイ市内および近郊バスで見物

七日 午前中休養、空路チリのサンチヤゴへ

八日 サンチヤゴ着、ホテル泊

九日 バスにてサンチヤゴ市内および近郊視察

一〇日 サンチヤゴ空港発、ブエノスアイレス着、ホテルにて休養後バスで市内観光

一一日 バスで市内および近郊視察

一二日 ブエノスアイレス空港発、途中モンテビデオにて休養後サンパウロ空港着

一三日 サンパウロ市内および近郊視察

一四日 サンパウロ空港発、リオデジヤネイロ着、ホテルにて休憩後バスで市内観光

一五日 リオデジヤネイロ市内観光

一六日 リオデジヤネイロ空港発、ブラジリア市内観光リオデジヤネイロ着

一七日 リオデジヤネイロ空港発、カラカス空港寄港後マイアミ空港着

一八日 マイアミ遊覧観光

一九日 マイアミ空港発ワシトンン空港着、市内見物、ワシントン空港発ニユーヨーク空港着

二〇日 国連本部はじめニユーヨーク市内見学

二一日 ニユーヨーク世界博見学

二二日 ニユーヨーク空港発、ナイヤガラ、ニユーヨーク空港着発、モントリオール空港着

二三日 モントリオール市内視察

二四日 モントリオール空港発、カルガリー空港着、特別バスでカナデイアンロツキーの中心バンフへ

二五日 バスでカナデイアンロツキー国立公園観光

二六日 カルガリー空港発、バンクーバー空港着、ホテルにて休養

二七日 バンクーバー市内および郊外視察

二八日

二九日 バンクーバー空港発、東京着

以上のとおりいずれの旅行もその行程は殆んど観光に終始していた。

そして、原告は、その発行(毎月一、一〇、二〇日の三回)する敷物新聞に、昭和三九年三月一日から同年四月二〇日までの間六回にわたつて美しいハワイと題する記事を昭和四〇年五月一〇日から同年九月一日までの間本紙社長の海外便りとして中南米から北米カナダへの旅と題する記事をそれぞれ掲載したが、その内容は脇本の旅行先の名所旧跡、産業、風土等の説明をしているものであつて、原告において脇本が視察したと主張する敷物、住宅事情に関する内容の記事は殆んどみあたらない。

以上のとおり認められ、原告代表者本人尋問中右認定に反する部分は措信しえず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上1、2の事実を総合すれば、本件各旅行はいずれも旅行地における敷物、住宅事情の取材、調査を主としたものではなく、脇本個人の観光旅行であつたと認めるのが相当である。

原告は、その発行する敷物新聞には、主として敷物に関連した記事を掲載しているが、それ以外の記事も必要に応じ掲載しており、本件旅行はいずれも海外旅行記を同新聞に掲載するための取材旅行であるから業務遂行目的を主とするものであると主張するが、本件各旅行はいずれも前記認定のとおり脇本の観光を主たる目的とするものであり、原告が右に主張するように取材を主目的としたものとは解されず、右主張は採用しえない。

以上の考察からして原告会社において支出したハワイ旅行に要した五〇万円および中南米カナダ旅行に要した三〇万五、三四二円は法人税二二条三項所定の原告会社の業務遂行上必要な費用とは認められず、脇本に対する賞与といわざるをえない。

三  そこで、昭和四〇事業年度の法人税につき、原告申告額が一三九万八、三〇五円であることは原告において明らかに争ないところであるからこれを自白したものとみなすべく、成立に争いない乙第一二号証の一、二によれば当時施行の租税特別措置法四二条にいう軽減税率適用所得金額は一五万円であることが認められるので、同事業年度の法人税につき別表二のとおり計算すると、右税額は五一万四、四〇〇円(百円未満切捨)となる。

してみると、本件更正処分は正当であつて何ら取消すべき違法は存しない。

また、原告会社から脇本に対し昭和三九年七月三一日五〇万円(うち裁決により取消された部分相当額一八万円を除く)、昭和四〇年一二月二一日三〇万五、三四二円がそれぞれ賞与として支払われたことは前記のとおりであるから、右各支払の時をもつて確定した源泉所得税額を算出すれば別表三中税額欄記載の金額となり、これに伴つて不納付加算税額を算出すれば同表中不納付加算税欄記載の金額となる。

してみると、本件源泉所得税納税告知処分(裁決により取消された部分を除く)および不納付加算税賦課決定処分(裁決により取消された部分を除く)は正当であつて、何ら取消すべき違法は存しない。

四  以上の次第で、原告が被告に対し本件各処分の取消しを求める本訴請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 白川清吉 裁判官 池田克俊)

別表一

所得金額の明細(自昭和四〇年一月一日 至〃四〇年一二月三一日)

〈省略〉

別表二

税額計算の根基

〈省略〉

別表三 源泉所得税の明細

一 昭和三九年七月三一日確定分

〈省略〉

二 昭和四〇年一二月二一日確定分

〈省略〉

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